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Please call me over and over again. (嶋本と高嶺)

珍しい人から非番の朝にしんどいと救助要請があったので、ひとまず最低限を買い込んで向かえばいつもより遠くから玄関へ自分を迎えに出たその人は、何やねんと一言苦しげに眉間にしわを寄せながらぶっきらぼうにそう言ったから、まさかこれほどとは電話越しに思わなかった自分を叱咤しながら寝ていて下さいというしかなかった。
本当は本来寝るべき場所へ大人しく収めてしまうのがいいのだろうけれど、相手にしてもこちらにしても互いに目と声の届く範囲が都合がよいということでひとまずソファに落ち着いてもらう。手早く状況を確認して素早く体温計をくわえさせ、その小さな画面に表示された数字にもう一度だけ軽くあきらめのため息を吐いて目を開けているのも苦しいのかまぶたを下ろしたまま浅い呼吸で苦しそうに息づくその人のうっすら汗ばんだ額に手のひらを当てれば寒い季節に重宝される自分の手のひらすらぬるく感じる体温が触れ合う二つの皮膚の間でじわりじわりと溶け出した。




A slight fever. (嶋本)

朝早くからの呼び出しにも文句一つ言わずにやってきたその救命士のおかげか何かは知らないが、とにかく日常生活に大した支障を来たさない範囲にまで回復した俺がなぜこんなにも体調の崩れたタイミングを昨夜から急にであると強調して主張しているのか気づかないようであるならもうさっさと一人でどうにでもなってしまえと強い言葉で弱気なことを思ってしまう原因はやはり昨日の夜から旧に崩れた体調をまだ引きずっているのだと思い込む。




Goods of poor. (高嶺)

ぬるくなってしまった額の冷却シートをそっと優しく丁寧にはがしながら、もう一度熱をはかる意味でそっと額に手を乗せる。
どうして昨日のうちに気づけなかったのかとかもう少し用意をしてこなかったのかとか、そういうなんとも気持ちの悪いエゴが気持ちがこの人の熱に溶けていったら良いのにと自分勝手な願いをこめていることにきっとこの人はあっという間に気づいてしまうから、どうぞそのまま少し弱ったあなたでいてくださいと自己弁護のためだけに明日の朝日を呪う自分は、彼の額にそっと気遣うためであれその指先すら触れるのを許されないような気がしてしまう。




Sanatorium. (嶋本)

お前は本当にわかってないのかそれとも隠し通せるとでも思っているのかと段々弱気が苛々に変わっていって、ああこんなにも自分が悩む必要もないんじゃないのかとほとんど自棄のようになりながら口を開いてその言葉を発しようとする一瞬前に息を飲んで声を発する準備をしたのが見えたから自分のそれは飲み込んで待てば、思ったとおり自分の言ってほしい白旗そのものをぽろぽろとこぼすからもう一度だけ大切なことを繰り返し諭すように繰り返せば少しだけ罰の悪いような顔でようやく笑ったその顔は、たぶん熱に浮かされながら夢も現も覚束ない意識でずっと見たいと思っていた顔だったから、満足してもう少しだけ素直に甘えてやろうとこちらもにやりと口角を上げる。




Hoist a white flag. (高嶺)

先ほどからいやに同じことを繰り返し繰り返しまるで子供に諭すように繰り返すから、ああもうこれは完全に手の内なんてものではなくてきっと手のひらの手相くらいまでは見透かされているのだなと思ってなかなかそれについて言及しない自分にきっと段々腹が立ってきているのだとわかってしまって、だからそっと自分の中でだけ小さな決心をしてそのなんとも居心地の悪くなる自分の勝手な不安やら心配やらをひけらかせば、自分のそんな勝手な不安やら心配をよそに回復してしまったその人はもう一度だけ最後のように小さく同じく繰り返すから、本当は隠し通せるのじゃないかと思っていたことへの謝罪をこめて笑えば満足したようににやりと口角を上げたその顔がたぶん熱に浮かされているこの人の顔を見るたび脳裏に思い描いた一番そうであってほしい顔だったから、今度こそ本当に心の底から安堵して仕方のない人ですねと笑う。



手のひらにまつわる小話嶋嶺編。
気遣いとすれ違いと判りきったことと気味悪いエゴと、取り払われた壁。

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