背面の望郷につきましては、 (嶋本)
背中を合わせて何を考えるかといえば、自分の拍動と相手の拍動が背中の間のその刹那のあたりで一緒に重ならないことに気づいて、どちらが速いとかどちらが遅いとかではなくて、確かに別の生き方を選んでいるのだというその証明な気がして、泣きそうになったことなんかを最近はよく反芻する。
背景の望遠につきましては、 (高嶺)
お互いに遠慮するみたいにちょうどいい具合を測りながら体重を相手に任せきるような背中合わせが好きで、でもなんとなくそれによって伝わる相手の拍動が自分のそれを重ならないことに気づいたから、さりげなくを気取って手探りでその人の手を握る。あなたも私もここにいることを誰かが証明してくれればいいですね、なんて冗談めかしながら。
雨音の一枚二枚 (高嶺)
感心してしまうだけの勢いで空から大粒の雨が落ちてくるから、出かけた先でそれにあたってもうどうしようもなく濡れてしまった報告なんかを電話で聞きながら、自分が眺めているその音を声の向こうに聞いて、左耳の雨音と右耳のその声とそのもう一枚外側の雨音に包まれてまるでこの世に二人きりのように思えた。なんて言ったらあなたはきっと鼻で笑って終わらせるのでしょうけれど。
レインコートのシュールな翻り (嶋本)
憎たらしいだけの勢いで雨に降られたから、一刻も早く帰宅して風呂に入りたいと思って電話をしたら相変わらず優しい声の後ろ側がぼんやり雨音に霞んでいたから、雨音のただなかにいてやかましいと文句を言っている自分を窓一枚向こうの部屋の中に待っているそいつの気持ちなんてわかるわけないが、それでもこんな轟音の中で切り取られたみたいに一人でいるのは自分ならまっぴらごめんだと思ってなおのこと早く帰ろうと息をひとつ整えて走り出す。
赤と青と白と黒 (嶋本と高嶺)
突然、放たれたその言葉に、
「かわいくない」
反応できないのは、たぶん当然のこと。
「はっ?」
なのに止まらないその言葉の続き。
「本当に嶋はかわいげがないね」
気がかりにもなるというものです。
「高嶺?」
状況が状況で周りが大勢なだけに、ちょっと、
「いつの間にそんなにかわいげのない大人に育ったの」
ちょっとどころではない、これは、かなり、やばいのではないかと、
「高嶺さん?」
思わず敬語にもなるというものです。
「そんな風に育てた覚えは」
「誰や高嶺こないなるまで飲ませたの!!!」
右の拳を思い切り握り締めて、高らかに。
雨の話と背中合わせの話と、お酒に我をなくす話。
高嶺さんだってたまにはちょっと記憶が飛ぶくらいお酒をきこしめせばいい。
嶋本さんと高嶺さんの関係性は背中合わせなのがデフォルトかな、と、
そんな、ちょっとだけいつもよりも距離の近い二人。
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