はいいろ (高嶺)
ロッカーの立ち並ぶその隅っこで、見つけてしまったのだからしかたがない。
うずくまって、微動だにしない。苦しくないのか心配になったが、多分、敢えて苦しい体勢をとっているのだと思い至る。
「・・・・・・・着替えないと、」
あとがつかえるとか、あとで面倒だよとか、今苦しいのは彼なのに、これから先のことにしか、かける言葉が見つからない。
がた、ばたん、と苦し紛れに自分のロッカーから小さな包みを取り出す。
皮肉にもそれはのど飴だった。
「気分、悪くなると困るから」
気が向いたら食べて、と無責任に爪先のあたりに置き去りにする。
「体、あまり冷やすとよくありませんよ」
こんな気遣いで、彼が顔をあげるとも思わない。自分の裏側にあるのが、このなんともいえない気味の悪い色のエゴだと知ったら、一体彼はどうするのだろう。
ねずみいろ (嶋本)
見つかってしまったのはしかたがない。だけれど、放っておいて欲しい。
自分の体勢がどのくらい苦しいのか見て察することができるのなら、そのまま自分の心情すら見透かして、そのまま放っておいてくれればいい。
なにかをもやもや話しかけられて、よく聞こえなかったから返事もせずに黙っていたら、がた、ばたんとロッカーを開け閉めする音と、かすかに何かの包装紙が立てた音が聞こえて、つま先あたりにこつんと小さな包みが置かれた。
これ以上気分が悪くなる余地もないような、この心情から立ち直るきっかけにしては、あまりにものど飴とは皮肉だ。散々喚いても、許される免罪符のつもりだろうか。
最後にいつもの気遣いを投げて、救命士は出て行く。
他人のエゴにいちいち付きあうあいつは、よっぽど面倒な性格なのだ。今の、自分よりも。
あたたかいいろ (嶋嶺)
どうしたの、とはもはや訊かない。
いきなり無言で、全体重を預けられる。時折やめて欲しいと思う体勢の時もあるが、今は普通によりかかっていただけで、それほど苦になるわけではない。
そうしてそのまま、無言のままで目を閉じる。ゆっくりと呼吸が規則的になって、眠ったのかと思えるほど穏やかに緊張が解けていく。
そういえば、自分はいつ気づいたのだろう。
これが彼なりの、精一杯の甘えだと。
気づいて気づかれて、わかってわかられて、お互いの歩み寄りにまつわる小話三つ。
嶋本さんを書いたら高嶺さんを書いてしまう自分の二人一組具合がよくわかります。
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