高々と交わるその手のひら (嶋本と高嶺)
いつだったかそれはまだ新人と呼ばれるのにふさわしかったころの訓練で二人一組になったとき、今日の訓練は新人には難易度が高いと先輩がおそらく冗談で言ったその軽い言葉に確かにお互い何かしら走るものがあったのだろう、声には出さず、必要以外の視線を合わせることもなかったが、それでも互いに乗り越えてやろうとがむしゃらで、結局訓練の終わった後には膝が笑い足は震えて息は上がり腕の痺れは残り続けたけれどそれでも汗だくになって荒い息のままお互い一度だけ必要以外の視線を合わせて整えるための息をひとつ飲み込んだ後にどちらからともなく高々と打ち鳴らしたその手のひらの心地よい痛みと熱は今でも鮮明に思い出せる。
無自覚に伸ばされるその手のひら (嶋本と真田)
後ろから目を塞がれて、その指先やら手のひらやらにできている独特の硬い皮膚の感触で誰だか判ってしまったから、誰だなんて初歩的なことを聞かれる前に何してるんですか隊長と先手を取れば案の定誰かに何かを吹き込まれたらしいその人はまるでいつものように言葉を返して会話をつなげる。
誰だか判ってしまったついでに自分の手のひらの軟らかさとその人のそれを比べてしまった自分は、この真正面といういくら手のひらをかざして伸ばして走っても届きそうにない距離感をどうしようもなく実感した自分は今この人に対してうまく笑えているだろうか。
優しく触れるその手のひら (嶋本)
いつもそっと優しく自分に触れるその手のひらが自分のそれより少しだけ大きくて、それだけでは決定されないと判りきってはいるのにやはりそいつのほうがより多くの手を掴みあげられるような気がして、昔誰かに愛情の大きさと手のひらのそれは比例するというようなことを聞いた気がしたから余計に悔しくなってしまって悔し紛れにそいつを叩けば、またそいつがそれを受け止めるための努力を怠らずにずっとずっと先へ行ってしまうのではないかと気づいたときにはもう遅かった。
この小さな手のひら (高嶺)
他人よりも小柄な体躯でそこに立っているその人はやはり何かしら細かいところで自分よりは小さくて、その日もたまたま重ね合わせた手のひらが若干小さいことが悔しかったのか何なのかは知らないが比較的強めに叩かれてしまったから、まだもう少しこの人の全てなんておこがましいけれど受け止めきれる部分の全ては受け止めてあげたいと密かに思う自分は前進の余地があるのだと実感する。
ただ愛情のみに注がれる手のひら (嶋本)
愛情と手のひらの大きさが比例するのならば今ここでたった一人じゃ何もできない雛鳥たちを一人前にするためにその平手を大いに奮っている自分は、だったらそれがない分だけいつも優しく触れてくる隣のあいつよりもその分だけ先に進めているような気がして、たとえそうでないにしろあいつが先に進んでいるにしろ自分がもしかしたら先にいるにしろ、もう何でも良いからとにかく素直においていかれだけはしてやらないと心に誓う。
手のひらにまつわる小話。あいも変わらず嶋と嶺が多くて苦笑い。
いつになく筆が進んだ小話でした。書きたいことを書ききったような気がして満足です。
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