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おやすみ (旧嶋本三隊)

どうも非番の過ごし方を聞いていると、救命士は私事をする日だと思っているらしいし、隊長は仕事をしない日だと思っているらしい。
そんなんどっちも面倒くさい理由があるからだろ、と聞き流していたら空気の読めない若人がこちらに話を振るものだから、まぁ非番の日にまで海見たくないねーとか適当なことを言っておいたが、とりあえず兵悟ちゃん逃げないでねと首根っこをつかむ。




夏の夜 (旧嶋本三隊)

怖い話をしましょうと、相変わらず本心の読めないレンジャー担当が、火危険物担当の腕をがっしり捕まえたまま言うものだから、あんまり哀れになったので一人一つまでと最低限の基準で始めたら、潜水担当の話はどこかで聞いたことがあって、レンジャー担当の話は怖いと言うか気持ち悪さが先に立って、副隊長はなんの躊躇いもなく棄権を宣言し、怖がるばかりの火危険物担当は使い物にもならなさそうだったので、それら全てを温かい目でずっと見守っていた救命士に話を振れば、ふっと優しく笑ったままで、ずっとそのままの笑顔で話をするものだから、潜水担当と火危険物担当とレンジャー担当の若い三人は怯えに怯え、副隊長はさすがにどこ吹く風だったが冗談めかして鳥肌が立った多分本当のことを言うし、阿呆らしいと高を括っていた自分の首筋が一番粟立っているのかと思うと、救命士に足がついているかを確認したくもなるのだった。




怯える小鹿 (旧嶋本三隊)

車内の張り詰めた空気、なんとも気まずい雰囲気、重苦しい空間。
ハンドルを握る救命士と、助手席に座る隊長はどうやら同じ事について何かしら怒っているようだけれど、その怒りの原因を知りえない他の四名(副隊長はわかっているのかもしれないが)は、黙っているしかない。
「高嶺」
目的地が近付いて、ああ、やっと終わるのかと一瞬緩んだその瞬間、まるで計ったように隊長の冷たい声がする。
「はい」
それに返す救命士の声も冷たいが、二人の怒りの方向が同じであるのが唯一の救いなのだと思う。
「車、あそこに止め。ええな」
「了解」
短い会話の中で、隊長の指示した場所は酷く狭い。丁度車と車に挟まれる形の、実に平和で安全な駐車を願い出たいほどの、まるで猫の額といい勝負である。全くそれなのに、この車の行く先を全て掌握する救命士は、減速など知らないように車を走らせる。
色々察しているらしい平気な顔の副隊長の隣で、北の鉄人が嫌な汗を滲ませ、鹿児島人が嫌な予感に顔を歪ませ、潜水担当が何か制止の言葉をあげようとして、遠心力に振り回されて舌を噛んだ。
「着きましたよ」
「おう」
実に乱暴な運転と、それを指示した当人達はどうやらそれで気が済んだらしい。
そんな気晴らしにはもう付き合いたくないと、必死で願う三人だった。




言論の自由 (大口と高嶺)

珍しい二人が残ったな、と大口は思う。 同じ隊の中で気まずい空気になる可能性が限りなく低い相手だな、とも思いながら、それでもやはり、一方的に身構える。
暇、なのはいいことなので特に気にはならないし、特に話すことがなくても穏やかに時間は流れていく。差し出されたコーヒーを受け取れば、おそらくもうそれだけで終わってしまっただろうに、なぜだか、
「俺、ほんとのこと言うと高嶺さんて苦手なんですよね」
「・・・うん?」
「俺って結構こういうこと本人に言っちゃう方だからやっぱり言っちゃいますけど、」
それでも、目線はどこかへ向けたまま。
「なんていうのか、俺って自分で自分が愛嬌ある方だって判ってるし、そういう意味では計算してるから大体どんな人でも受けはいいし、それこそ老若男女から好かれようと思えば好かれるだろうし、でも、なんていうのか、類は友を呼ぶっていうのか、ちゃんと俺が自覚した愛嬌振りまいてるってなんとなくわかってるような奴らが多くて、同級生とか彼女とかそうで、ここの人たち初めて見た時はなんか、規格外だなってのは思ったんですけど、高嶺さんはなんていうか、うん、範疇外って感じ、」
でした、と控え目に最後を敬語で締めて、ようやく本人の方を見る。
まだ焦点は合っていないように見えるが、比較的大きな眼だから察しにくいのだろうか。
「なんか、慣れてないんですよね、そういう、他意の無いっていうか、気遣いみたいなの」
「・・・・ええと、それは」
どういうことかな、と高嶺が図りあぐねている間にも、大口はさっさと結論付けをしてしまう。
「だから、なんていうか、どうリアクションしたらいいのかわかんないっていうのか、そんな感じでちょっと苦手です」
「・・・・・うん」
自分の気遣いが嫌だったのかと少し思いを巡らせている高嶺に、大口は何の釈明もないまま立ち上がる。
「ちょっと小鉄さんの方、手伝ってきますね」
倉庫で一人仕事をこなしている隊員は、確かになかなか戻ってこない。
どうにも先ほどから返答に困り果てている高嶺を見て、大口は最後の最後に最大の混乱を投げつける。
「慣れてないってだけで、うれしいです、コーヒーとか、ごはん、とか」
そう言って出て行った大口に、結局最後まで自分の思うところを一つも言えなかった高嶺の苦笑は見えただろうか。




ぼんやりぼんやり (旧嶋本三隊)

こんなものが、出会いの季節の象徴だなんて、馬鹿らしいにもほどがある。
「なんで、ぼーっとしてると口開くんですかね」
「なんでだろうね」
「そういえば、寝てる間に口開けてると魂とられるらしいですよ」
「誰にや」
「さぁ」
「思いつきでいうなよー」
「ちゅーか寝てるときに口閉じてるやつなんかおるんか」
「あんま、きかないですよね」
「上見すぎて首痛ぇー」
「ちょっと皆さん馬鹿過ぎないですか、こんなところで」
「うわー、お母さんが怒ったー」
「誰がお母さんですか」
「お前しかおらんやろ」
「かずあき君のお母さん」
「桜の木の下に死体が埋まってるって最初にいったの、誰でしたっけ」
「誰でもええがな。けったいなこといいよるわ」
「奇麗だからいいんじゃないですか」
「結果オーライってことで」
「まぁ、確かにいい歳した大人が六人で桜見上げてんのも、なんや馬鹿らしいな」
「北海道って桜咲くんですか?」
「咲くけど、一応」
「五月ぐらいに咲きません?ゴールデンウィークに花見すんですか?」
「あー、ちょうどいいじゃん、休みとんなくていいから」
「いや、そういうわけじゃ」
「桜も梅もライラックもなんもかんもいっぺんに咲かれたら、追いつかんわな」
「いえ、あの、」
「ほらほら、皆さんいい加減中に入ったらどうですか」
「よっしゃ、お母さん怒りよるし、いこか」
「だから誰がお母さんですか」
「ほーい」
「桜って、見てると目ぇまわってくるよな?」
「えっ、別にまわりませんけど・・・・・」
「あれ、マジで?小鉄さんは?」
「別に・・・・・」
「あれ、普通はまわらないんですか?」
「せやろな」
「えー」
これが、別れの季節の象徴なんて、馬鹿馬鹿しいにもほどがある。



旧嶋本三隊の小話を五つ、本当に本当に大好きな隊です。
できることならもう一度くらい本編で拝みたいです。

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