相変わらずこの人は (真田と嶋本と高嶺)
ああ、何やかんやいっても、事の発端はやっぱりこの人や。
さっきまで本当に寝ていたのかも怪しいほどすっきりと目覚めるのは判っていたけれども、頭の回転がまだ追いついていないときに口を開くのはやめよう、と、反面教師のように思う。
「お母さん」
ああ、ああ、隊長、隊長しっかりして下さい、あなたのお母さんはここにはいてません。
「・・・はい」
お前もお前で返事すんな!ツッコミの一つでも入れてからにしろ!せめて!その台詞の前の微妙な沈黙でさらにまわりみんな固まった挙句に引いたがな!困ってんのや!
「――・・・ん?どうした、嶋本」
どうしたもこうしたも、全部あんたの責任やろが!!どうにかしてんのはあんたの方や、つーか俺だけやないですよ、ちゃんとまわりを見て下さい、みんな阿呆みたいにぽかーんとしてしまってるやないですか、ああもうこの際、役職とかかなぐり捨てて思いっきりツッコみいれてもええかな、許されるかな、主にあのでっかいおっさんとかには許されそうやな、よっしゃ、いったろ、でもなるべくその前に自分でちゃんと気づいて下さい、隊長。
「・・・・・ああ、なるほど、すまなかった、高嶺」
ああ、ほんとに祈りって通じるもんなんやな、この時ばかりは神様でも仏様でも感謝します、ありがとうございます、うちの隊長にえらい過ちを気づかせてくれてありがとうございます、でもできるんやったらうちの隊長のこういうところを、もちょっとだけ一般人に近づけて下さい。
お鉢がまわってくる (嶋本と高嶺と)
あ、あかん、そう思って、高嶺呼ばな、そう思って、どうして口をついて出てくるんやろう、
「おか・・・・・・・・・・・・・・・」
途中で気ぃついたのがもっと悪い。いっそ最後までいったほうが、まだなんぼかマシやった。中途半端なんが一番悪い。そして案の定、専門官なんかUFO見たかてこんな顔せんわってくらいにぽかーんとしてるし、その後ろのほうであの声もガタイも態度もおっきいおっさんが、子供が見たら確実に泣きだすような顔でしてやったりみたいな笑いを浮かべたもんだから、あとでなんかいってやろと思うけれど、とりあえず今は、
「岡山県って何管区やった、高嶺」
「・・・・・自分で調べて下さい、そのくらい」
ああもう、お前までやれやれみたいな哀れむような顔すんな!俺が一番可哀想やねんから!
そうして受け継がれていく (神林と高嶺と嶋本)
自分はそんなに機械と相性が悪いほうではなかったと思うのだけれど、なんというか、意思の疎通がうまくいっていないようには思う。現に今、目の前のパソコンは、うんもすんもいわなくなってしまっている。ああ、困ったなぁ、覚えたはずのことを忘れているのってかなり寂しい。
そう思いながら、ちょっとだけ混乱した頭を振り向かせて助けを呼ぼうとしたはずなんだけれど、
「お母さん、あの、」
までいって、気がついた。嶋本さんのものすごく冷たい視線で気がついた。
「なんや神林、お前の母親はここにはおらんで」
「あのっ、えっと、違っ、て、あの・・・・・・・たか、みね、さん、です」
うわあああ、どうしよう、そんな、こんな間違い、まさか、するとは、思わなくて、
「大丈夫だよ、神林君、どうしたの」
優しいんだけど、高嶺さんはいつものように優しいんだけど、でも、今だけはちょっとそっとしといて下さい、呼んだのは俺なんですけど!
ありそうでなさそうで、 (嶋本と高嶺)
「なんだか、もう、毎年、ですね」
諦めたように、溜め息。
「そろそろ恒例行事とちゃうか」
「あなただって呼んだくせに」
やっぱり、判っていたけれど、判られている。
「呼んどらん」
「意地っ張りですね」
「うっさいわ」
頼むからそのことにだけは生涯でもう二度と触れられたくない。
高嶺さんをお母さんと呼び始める発端とそれからのこと。
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